表記について

・R指定表現のあるページには、(※R)を付けています。苦手な方はご注意下さいませ。
・「NOVEL1」の内容は"ポーンコミュニティ"にも載せておりましたが、本サイト掲載の際に各所加筆修正しております。

5

「あ、あの…。ありがとう…」
剣を背中に納め、こちらへ歩いてくるアツシさんに、私は何とかお礼を言おうと思った。
助けて貰った事への感謝と、申し訳ない気持ちが胸を詰まらせる。
……彼の表情は動かない。
やはり私はその応えのなさにどきりとして、つい目を逸らして俯いてしまった。
何も出来なかった自分が情けなかった。
その負い目も手伝って、彼の言葉の無さを気まずく感じてしまう。

「…ごめんなさい…」
そんな言葉しか出ない。

「何が…ですか?」
アツシさんの問いに、私はおずおずと顔を上げた。
相変わらずの表情の無さは、何の事か全く分からないといった様子だった。
「…あの、私…何も出来なくて…」
「気にする必要はありませんよ」
私の言葉を遮り、彼は続けた。
「私には、あなたをお守りする役目があります。ただそれを果たしただけの事です」
淡々と紡がれる言葉は、けれどそれでいて…どこか暖かいものを感じた。

「…ありがとう」
少し、ほっとした。

頭の中を占めていた戸惑いと、緊張が少し晴れると…。
もう一つ気になっていた事が、改めて巡り始めた。

先程助力してくれた、あの魔術師は…?
弾かれるように先程彼の人が居た場所を見ると、まだそこに居てくれていた。
「……すみません」
そろそろと近付いて声を掛けた。
「さっきは、ありがとうございました」
魔術師は私の顔を見て応えた。
「ーーいえ。私も偶然居合わせたものですから」
低く落ち着いた声からも、知的な雰囲気が滲み出ていた。
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