表記について

・R指定表現のあるページには、(※R)を付けています。苦手な方はご注意下さいませ。
・「NOVEL1」の内容は"ポーンコミュニティ"にも載せておりましたが、本サイト掲載の際に各所加筆修正しております。

14

そのうち卿が、私の腕を掴んでいた手を離したと…助かったと思った、その次の瞬間。
……ちょうど、覗きこむ顔と目が合った。
ーーそして再び、ゆっくり近付いてくる。
「…だからどうか…私と…!」
優しいーーけれどとても心が受け入れられない眼差しに…。
耐えられず目を背け、そして固く目を瞑り顔を逸らした。

「……い…やっ…!」
ーーとにかく必死だった。
歯を食いしばり、出来るだけの力で肘を後ろに突いた。
「…っ…?!」
短い声が挙がると共に、一瞬手が離れる。
その隙を見逃さず逃れ、駆けた。
決して後ろを見ず、非礼を詫びる事もなくーーただ静かな夜の闇に向かって。

ーー全身が震え、涙が止まらない。
何かが体中を這うような、身が置けないような感覚に襲われ…どうにか振り払いたくなる。

涙に噎せ、息が上がり、足がもつれて転びそうになっても……。
絶対に立ち止まりたくない。ーー足を止めたくなかった。

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ーー何故こうなったのか…分からない。

もっと早く…誘いを受けた時、疑えば良かったの…?
でも、そんな事はしたくなかった。
ーーそもそも、しようとも思わなかった。
だってあの人は城の役人で、私は覚者……それ以外の何でもなかったから。

今初めて、"覚者"という身の上が辛いと…そう感じた。


そのまま宿に駆け込んだ私は、ベッドに飛び込むように潜り込み。
暫く泣き疲れるまで……あまり眠れない夜を越え、朝を迎えた。

ーーそう。ずっと待ち望んでいた、"明日"を。
眩い朝陽が射し始める中、けれど心はーーずっと闇を彷徨っているように真っ暗だった。


ーーごめんなさい…。ごめんなさい、アツシさん…。
……私には、もう……。
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