表記について

・R指定表現のあるページには、(※R)を付けています。苦手な方はご注意下さいませ。
・「NOVEL1」の内容は"ポーンコミュニティ"にも載せておりましたが、本サイト掲載の際に各所加筆修正しております。

3

此処へ来る途中から、以前ある人物から聞いた話を思い出していた。

ーー”其の杖は竜を求め崇める祭器として…”ーー
あまり信じたくはなかったけれど。

ーー”八百万の神々に祈りを捧げていた巫女王の…”ーー
もし万が一、縁があるならば。

真の覚者にしか会えないと云う、竜識者から聞いた話は…。
真実なのか迷信なのかは、この杖を持つ私にも分からない。
でも、駄目で元々。例え実現しなくても、きっと当然の事。

杖を持つ手に力を込め、いつもは虚空に念を送るもう片方の手を胸に当てて。
ーー静かに、頭の中を"無"にするよう努めた。
普段の魔法は、自然の力を借りる事をイメージしながら呪文を詠唱する。
けれど今試そうとしているのは、話に伝え聞いただけの…自然に宿ると考えられていた神々への祈り。
必死に、イメージを浮かべようと集中する。

ーー八百万の神…。例えは…火の神…?

体が暖かな光に包まれていくような感覚。
意識の中に、ぼんやりと詞が流れ出す。

"地の底より産つ、火の神…。"

ーーそう。自然界には、様々な力が宿っている。
天から降る眩い太陽の光と熱、地表の素となる土、美しくも力強く芽生える緑…他にも、命に恵みをもたらす海や川の水。
それらに力を司る神が宿っていて、生命の営みを助けてくれていると考えていた国の人々の…。
その意識に同調しているように、瞼の裏に自然のままの光景が浮かぶ。

目を閉じたまま、自然に手が動き杖を振る。
自分では見えないものの、その動きはきっと…。
戦いの最中には似つかわしくない、いわば"舞"のようなもの。
自分の体が何かに動かされているような、不思議な感覚だった。

ーーこれなら…いける。
不思議と、そう確信した。

"その力を今一時我に。その力をもって、祓いを…!”

炎の力が杖から流れるのを感じた。
この力は…そう。あの魔法と同じ……!
手を勢い良く振り挙げると、リザードマンの群の中に炎の壁が立ち上った。
リザードマン達は一度勢い良く床から跳ね上げられ、そして次々と倒れ伏していった。

力が途切れた瞬間、ふっと体の力が抜けた。
よろめきながらも、杖を地について身を支えた。
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