表記について

・R指定表現のあるページには、(※R)を付けています。苦手な方はご注意下さいませ。
・「NOVEL1」の内容は"ポーンコミュニティ"にも載せておりましたが、本サイト掲載の際に各所加筆修正しております。

4

今にも切りかかろうとしていたアツシさんが足を止め、そのままの姿勢で振り向いた。
「…マスター…?」
きっと、その先に見えた私のすぐれない様子に。
不思議そうに、そして少し心配そうにこちらを見詰めているのが分かる。

慌てて、剣を納めて駆け寄って来る彼にーー何とか微笑みを向けて、意志表示してみる。
けれどやはり言葉に出せていない分、伝わりにくいのか…。
彼の、その曇った表情は晴れない。
「…どうか、無理なさらないで下さい」
彼の気遣いに、自分でももどかしい気持ちで一杯だった。
いつもと同じ魔法の筈だったのに…何故か体力の消耗が激しい。

返事の代わりに頷きながら、杖を納めようと地面から浮かせた。
ーー体が、ぐらりと揺れた。
「マスター…!」
とっさに腕を掴まれ、支えられた瞬間。

まるで、幻覚を至近で視るようにーー。
見知らぬ人物の映像が、突然脳裏に瞬いた。

ただそれは、ほんの一瞬。
どこから流れ込んで来たのかも判らない。

……誰……?
全く見覚えのない姿。けれども彼等の携えているその武具はーー。
……どうしてこんな……。何が、どうなって…?
唯の一瞬の幻に、頭が混乱する。
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「……ター……? マスター?!」

いつの間にか……周りが見えなくなっていた。
はたと気が付くと、更に心配そうに神妙な表情で見詰めているアツシさんの顔。
「…顔色が悪いようですが…。一度戻られますか?」
動揺が顔に出ていたらしい。
ーーそして、彼には今の映像は視えていないようだった。
気のせい、だったのかも知れない。伝え聞いた話を意識し過ぎた為に…。

私のせいで、出直しなんて…。
それに、外では神官が報告を待っている。
ーーゆっくりと首を振り。
出来るだけ表情を引き締めたつもりで……彼の目を見詰め返した。
……我儘かも知れないけれど……出来るだけ、やり通したい。
こんな頼りない私でも、もしーー皆が信じて支えてくれるなら。

「マスター…」
アツシさんは、少し戸惑っているようだったけれど。
すぐにまたいつもの真っ直ぐな表情に戻り、頷いてくれた。
「わかりました。ただ…。これ以上の無理な行動は、お控え頂けますか」
言葉と共に、彼の瞳に強い光が差す。

「私は何時如何なる場合でも、あなたをお守りするつもりである事に変わりはありません。…ただその前に…」
目の端に、彼がぐっと拳を握るのが映った。
そして息を吐くように、目を細めながら眉根を寄せるのも。
「あなたには…。どうかもっと…ご自身を……」

ーーその表情は、厳しくも…どこか哀しげで。
途切れた言葉の先は続かなかったけれど。
…何となく、私自身申し訳なくて。

目を逸らしてしまいながら、おずおずと頷いた。
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