表記について

・R指定表現のあるページには、(※R)を付けています。苦手な方はご注意下さいませ。
・「NOVEL1」の内容は"ポーンコミュニティ"にも載せておりましたが、本サイト掲載の際に各所加筆修正しております。

5

「…アツシさん」
横手から、少し低いルゥさんの声。
「ハゥルをセッちゃんの隣に付けるから。…あなたはとにかく前に出ていて」
「…姉さ…」
「向かって来る敵を、先に全部倒しちゃえばいいんでしょ?そうすればセッちゃんは戦わなくて済むじゃない。そうでしょう?」
「………」
一気に口上を並べるルゥさんに対し、ハゥルさんも口を挟めず。
ーーアツシさんはただ黙っている。
二人の固い表情が、誰も立ち入る隙を作らせない。

「…ほら、もたもたしない!さっさと行くの!」
強い口調で言いながら、ルゥさんはアツシさんの背中をぐいと押した。

彼が、歩き出しながらこちらを振り向いたけれど…。
私自身も今は何も良い方法が思い付かず、どうする事も出来ない。
「…行きましょう。とりあえず、此処にじっとしている訳にもいきませんね」
ハゥルさんが、こちらへ静かに歩み寄ってきた。
「ーー歩けますか?」
目を見て肯き返す。
もう、ふらつきは殆ど治まっていた。

「覚者様」
歩きながら、ハゥルさんがさりげなく問いかけて来た。
「…先程は、詠唱もなしに魔法を…?」
どう答えを表して良いか判らず、とりあえず肯いた。
「ーーいえ、あれは…。かつて存在したと云われ、今では失われたと云われる”術”ではと…。そして、魔法の基となったとも云われる…。覚者様にはそもそも、魔法の素養もお在りなのでしょうが…」
顎に手を軽く当てたハゥルさんの双眸が、まるで文献を調べているかのように研ぎ澄まされている。
「その杖の力が示される通り、覚者様は……。彼の失われた国との繋がりが…?」
ハゥルさんの目が、謎を追うように細められる。

かつて、竜識者も言っていた。
この杖の元の持ち主ーー亡国の巫女王と云ったーーとの縁があるかもしれない、と。
ーー確かな事は解らないけれど……。

「セッちゃん、こっち!」
ルゥさんの声に、急速に意識が引き戻される。
続きの間の奥。呼ばれた向かうと、橋のレバーの取っ手が隠された箱が在った。
「ーーまずは先へ進めそうですね」
ハゥルさんが取っ手を拾い上げ、確認するように眺めながら頷いている。

…良かった…。
これでまずひとつ、道が開けた。

レバーを引き、橋を下ろした先にはーー。
まさに遺跡と呼ぶべき佇まいの、凝った石造りの空間が広がっていた。
中央に祠のような造りの間、その周りにはぐるっと通路。
暗くてあまり見えないけれど、まだ奥にも続いているのだろうか…。

「ーーふむ、これはなかなか…」
興味をそそられた様子で、ハゥルさんは足早に橋を渡っていく。
「あっ、ちょっと待ってよ。ハゥル!」
ルゥさんが慌てて追う。
暫くの間、先の光景に目を奪われていた私も後に続く。
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