表記について

・R指定表現のあるページには、(※R)を付けています。苦手な方はご注意下さいませ。
・「NOVEL1」の内容は"ポーンコミュニティ"にも載せておりましたが、本サイト掲載の際に各所加筆修正しております。

6

でも……胸の奥がざわつくのは何故だろう…。

『しかしながら……其の姫巫女すら亡き今ーー。其方ーーいえ…。貴女こそが……』
竜の口調が、徐々に恭しい響きへと変わってゆく。
その空気の変化に、何故か緊張が高まる。

ーー私には…身に覚えのない話の筈……。

『やがて…、亡国を墜ちた者の築きし国に……。かつての姫巫女とーー同じ星廻り、同じ季の巡る頃……』
竜の瞳が再びーー私の視線上に合わさった。
体中の血が急速に回り巡る。手に汗が滲むーー。
『生を受けられた貴女こそ……。姫巫女と違い無き力を秘められしーー我らが姫』

ーー気のせいか…竜が少し微笑んだように見えた。
『…ずっと……。お待ちして…おりました……!』
そっと……。穏やかな口調と共に、竜は目を伏せる。

私に向って、恭しく一礼をするように。


ーー頭が真っ白になった。
未だ、他人事のように思えてならない…。
けれど、仮に……。もし仮にそうだとして…。
ーーそして、それなら……?

「…どうして…?」
先程は何故私達は戦い、何故あんなに辛い想いをしたのか…。
ーー戸惑い。憤り。やるせなさ。色んな感情が浮かんでは消え……、また繰り返す。
その事を考えても、竜の話をどうしても素直に受け止められない。

「…あなたは…一体…」
震える拳を握り、質問を投げかけようとするも……。
複雑な感情が胸に支えて、うまく言葉も出ない。

『私はかつて…其の杖に…祈りを…。魔力の加護を込めし者……。そして、姫君に仕えし者』
どきりとしてーー声を出しかけるも言葉を失う。
『其の杖を…巫女の祈りの術を継ぐ力を持つ…姫にーー。そう、貴女に…私に残された…魔力を…全て…!』
竜は言葉も切れ切れに、短く苦しそうな息を吐く。
ーーもう、こうして話せるのもきっと僅か…。
そう思うと、さっきまで仇成していた筈の相手を……その姿を……。見ているのが辛くなる。
『その為、貴女の…真の器を……』
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強大な竜の……自らの持つ力を全て託すために……。もっと大きな可能性を引き出させた…?

『…申し訳…、ございません……!』
長く静かに息を吐きながら……竜はもう殆ど言葉にならない声で呟いた。
『貴女様にーーそして此方の従者様にーー私は……。どうか…、どうか……』

ーーもしこの竜が、人の姿をとっていたら。
静かに涙を流していたのだろうか…。
そっと閉じられた瞼を、そして声を詰まらせ……。
その身が、まるで泣いているように戦慄いている。
思わずそっと、その体に手を触れた。

ーー竜の……このひとのした事はーー。
……でも……、私は知ってる。
さっき、術を終えるまで…このひとは待っていてくれた。
もっと早く、魔法を放つことも出来た筈なのに。

ーーそんなあなたは、きっと……。
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