表記について

・R指定表現のあるページには、(※R)を付けています。苦手な方はご注意下さいませ。
・「NOVEL1」の内容は"ポーンコミュニティ"にも載せておりましたが、本サイト掲載の際に各所加筆修正しております。

7

竜の瞼が、瞬きうっすらと開いた。
そして、まるで涙のような……、淡い光を浮かべながら私の顔を見た。
『ーーああ…、姫様……。貴女は…お優しく……。苦難にも負けぬ…強い心をお持ちです…。どうか…彼の竜にも…其の心をもって…打ち克たれ下さりませ…!』

ーー彼の竜ーー赤い竜の事だ。

その記憶に残る、ある意味神々しくも凶々しい姿を思い浮かべ……緊張が走る。
脳裏に流れる映像に、思わず身が固まっていた、その時。
ーー不意に竜の大きな手が、肩口に迫った。

「……?!」
「…マスター!」「セッちゃん!」
とっさに頭を庇うように腕を回して身を屈めるのと、皆の驚きの声が挙がるのは同時だった。

ーー何も……起こらない。
恐る恐る、目を開けると……。
その手に、私の杖を握る竜の姿が。

「……?!」

「ーー何を…?!」
手を伸ばすも、届かない。そして…。
『我らが姫のーー行く先に加護を。我が魔力全てーー今此の杖に…捧げ給わん…!』
自身の傷口ーー心臓に杖先を突き立てた。

流れ伝う竜の血は、眩い光と化し煌き……纏い付き杖を輝かせる。

『…どうか…勝手を…、お許し下さい……』
力無く、けれどもどこか恭しく差し出された杖を…震える手で受け取った。

「……?!」



再び静かに閉じられた瞼。その形も分からなくなるようにーー竜の体が溶けるように消え始める。
『……姫様……。貴女の従者様はーー。…かつて…姫巫女の側に居られた…剣士の……』
「……え……?」
一瞬、目を見開いた。
『…どうか…お二人……、此度…こそ……』

ーー静かに、空気の中に……。過ぎ去った時間の中に、溶けるように。
竜の体が消えたその痕には……。
紫色の珠がひとつ、遺された。

……そう……。
私の指輪の石と、同じ輝きを湛えて。
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竜の遺した珠を、そっと手に取る。
……ほんのり、温かい。
すっかり光の消えた杖からも、微かに温もりを感じるようで。
あの竜の魔力だけでなく、共に込められた想いがそれぞれに詰まっているのだと…。
あの苦しく激しい戦いの中では、よもや感じられなかった考えが巡る。
ーーでも……。
やはり、それだけでは治まらない後味も残る。

………あの竜の行動がすべて、もし本当に私の為にした事ならば……。
またも意識が現実に引き戻る。
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