表記について

・R指定表現のあるページには、(※R)を付けています。苦手な方はご注意下さいませ。
・「NOVEL1」の内容は"ポーンコミュニティ"にも載せておりましたが、本サイト掲載の際に各所加筆修正しております。

10

やがて体が、胸のあたりまで水に浸かる。
水深が深くなるにつれ、静かに寄せる波の飛沫が顔にも滴を残す。

……私は、これで……。

頬が段々と濡れていくのは…この海の水のせい…?
……それとも……。

これで楽になれるのだと……心穏やかだった筈なのに。

ーー私…は……?

「……アツシ…さん…!」
どうしたらいいの…?
意図に反して、嗚咽が漏れる。
とめどなく流れるものは……きっと私の…。

水の冷たさは気にならない。
けれども…。
抑えられない想いに…身勝手さに。
ただ、心が痛い。

せめてどうか、涙だけでも止めたいとーー顔を上げた時。
闇に包まれた景色すら滲む視界の端に、ぽつんと小さな灯りのようなものが映った。
ちらちらと揺れる、その光はーーランタンの灯……?

……こんな時間には、海には誰も居ない筈……。

その光は、桟橋の上に留まって静かに揺れている。
そしてやはりーー人影が見える。
今はそれどころでは無かった筈なのに……。
何故か、どこか寂し気なその佇まいにーー目が離せない。

足が……心が牽かれた。

服が濡れそぼり、動くのが重い。
そして何より、今の沈んだ気持ちからかーー足取りが重い。
桟橋の上の灯りを目で捉えたまま、ゆっくりと海中から上がり浜へ引き返す。
あれは本当に、人影なのだろうか…?
こうしている間にも、露と消える幻では……⁈
そんな事を考えながら、ついには桟橋に足を掛けた。

ーーやっぱり、誰か居る。
進む毎にその人影は確実に近付き…。
女性らしき姿を思わせる、線の細くーー長い髪を海風に揺らす後ろ姿が、はっきりと見て取れた。
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