表記について

・R指定表現のあるページには、(※R)を付けています。苦手な方はご注意下さいませ。
・「NOVEL1」の内容は"ポーンコミュニティ"にも載せておりましたが、本サイト掲載の際に各所加筆修正しております。

9

陽が落ち、暗くなるにつれ…。
村の中には少しずつ明かりが灯り、人々の姿が消えていく。
領都と違い、街灯も殆どないこの村では、明かりが増えるごとに静けさを増していく。
ちょうどその頃合いに、村の中に足を踏み入れた私はーーやはりここでもひとり歩く。

砂を踏みしめる音、砂浜に静かに寄せる波の音。
ここではやはりゆっくりと時間が流れている。
ーー村を出てから今日までの、目まぐるしい日々が嘘のように思えた。
……私はもう……此処でひとり…。

ーーアツシさん。あなたともっと居たかった……けれど。
私のせいでこれ以上苦しめるのも嫌…。
そして私が居なくても、きっとあなたなら……。

どうかもっと、幸せな道を。

彼の事を考えると、胸が詰まり……釣られて涙が滲む。
想う程に胸の奥が暖かくーーでも苦しくて。
……どうすればこの辛さから……。

心の中にも夜の帳が降りるような私の足は。
ーーゆっくりとーー昏い海へと向かう。
いっそ、こうして彼を想いながら……。

砂浜の砂利を踏みしめながら歩く足元に、ひやりとした水の感触が混じり始める。
このまま進めば、私は……。
ーーわかってる。
ゆっくりと、歩みを止めず進む。


これで、いいの。
此処でこのまま、静かに暮らそうとしても……きっと…。


少しでもーーあなたと心通えて、とても幸せだった。
「ーーさよなら…」
彼の姿を思い浮かべながら、囁くように呟いた。
「アツシさん…」
その名に、自然と笑みが浮かぶ。

……私は……このまま、あなたの思い出と共に。

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