表記について

・R指定表現のあるページには、(※R)を付けています。苦手な方はご注意下さいませ。
・「NOVEL1」の内容は"ポーンコミュニティ"にも載せておりましたが、本サイト掲載の際に各所加筆修正しております。

7

すっかり陽も落ち、空が輝かな茜から深い藍へと変わる頃。
なかなか見当たらぬ、我が主の姿を捜し求めるうち……。
遂に、此処まで足を踏み入れる事となった。

今までその永きを育たれた村ーー海と共に暮らす漁村、カサディス。
家々の灯りが漏れる路地には通り掛かる人の姿もなく、とても静かだ。
もはや纏わり付く程に身近に感じる浜風と、穏やかに寄せる波の音に身を置きながら。
薄闇の中、目を凝らしひとり歩く。
すぐ目の前に広大な海を臨むこの村は、陽が落ちると辺りはどこまでも暗い。
しんと静まり返った村の中、これでは人に尋ね回る事も出来ない。
ーーとにかく、己の感覚を頼りに探し当てるしかない。

何処かの建物からあなたの声が聞こえるのではないか、もしかすると路地裏からふらりと現れてくれるのではないかーー。
そう考えながら、村中をくまなく歩き回るも。
探し人の気配は、何処からも全く感じられない。

此処へ来る途中、懐かしい"宿営地"にも立ち寄ってみた。
防衛施設であるが故に、やはり兵士や傭兵ばかりが目に付く中。
居ればすぐ分かるあろう、その姿は何処にも見当たらなかった。

心当たりのある方向で、彼の方がひとり落ち着ける先は……此処である気がするのだが。
c5ce4041e1a7f34513f4a706808bf385_l.jpg

もはや此処にしか選択肢が無い筈の状況下での、宛の外れに。
苛立ちにも似た気持ちの焦りが、更に増してゆく。

ーー何故ーー!
自分の唯一の主であり、一番の大切な存在である彼のひとを……何故見つけ出す事が出来ないのか。
悔しさと歯痒さに、拳を強く握りーー浜辺に立つ。
時折海から吹く優しくも強い潮風に、想いを馳せながら顔を背けた。

ーーと、その方向に。
海の上でちらちらと揺れる、ひとつの小さな灯りが視界の端に入った。

……あれは…ランタンの光…?!

……まさか……。まさか…?!

考えるより先に、既に足はそちらへ駆け出していた。
ーー幻?……いや、確かに見える。
海へ向かい佇む人影を、目に焼き付けるように捉えたまま。
砂を蹴り桟橋へと上がり、その後ゆっくりと踏み板を軋ませながら近付いてみる。

……マスター……?
ーーいや、違う…。

そこに居たのは……。
腰のあたりまでも届く長い亜麻色の髪を持つ、黒衣に身を包んだ女性。
近付くにつれはっきりと確認できる、覚えのない姿に少々落胆しながらもーー。
せめて手掛かりが貰えるかも知れないと思い直し、歩み寄り声を掛けた。

「ーー少々、お尋ねしたいのですが」

夜風に靡く髪を揺らしながら、その人はゆっくりと静かに振り返る。
スポンサードリンク


この広告は一定期間更新がない場合に表示されます。
コンテンツの更新が行われると非表示に戻ります。
また、プレミアムユーザーになると常に非表示になります。