表記について

・R指定表現のあるページには、(※R)を付けています。苦手な方はご注意下さいませ。
・「NOVEL1」の内容は"ポーンコミュニティ"にも載せておりましたが、本サイト掲載の際に各所加筆修正しております。

5

眼前へと下りてきた魔物の顔へ、目元をなぞるようにアツシさんの剣が薙ぐ。
たまらず叫びを挙げながら、魔物は太い腕で床を叩く。
その衝撃で足元が揺れ、私達の体勢が揺らぐ。
けれども直ぐに、ハゥルさんが落とした魔法の雷がその腕を撃ちーーまたも動きが止まる。
ただ無防備に晒された目に剣が突き立ち、ただ虚しく天井を仰ぐ背中に矢が降って来る。
…もう…、動かないで…!
皆に次いで、私も必死の思いで魔法を撃った。

やがて、猛攻を受けたサイクロプスはーー。
長い息を吐くような呻き声を漏らし、鈍い音を立てて倒れ伏した。
こちらの強力な仲間との連携攻撃のもと、相手には反撃の猶予すらなかった筈だ。
「…なんか、意外とあっけなかったね」
「皆で力を合わせた成果でしょうね」
ルゥさんとハゥルさんは、どうやらまだまだ余力を残している。
皆それぞれに武器を納める音が、静かな空間に微かに響く。

場所と相手が悪くもーー皆無事に居られた事に、私もほっと息を吐きながら杖を納めた。

魔物の姿は徐々に床下へ吸い込まれるようにーー何事も無かったかのように消えていく。
そしてそのあとには、紅い珠が一つ、遺されていた。
……これは……?
其の一連の様子を見守りながら、少し後ろめたい気持ちも興る。

あの魔物は、これを護っていたの…?
今終えた戦いは、この迷宮の謎を解く試練だったのか……それとも……。

でもこれで、先への道が拓かれるのなら。
此処での探索が、竜の許への一つの手懸かりになるのなら…。

そっと、その珠を手に取った。

ーー其方……覚……ーー
紅い珠の中に宿る鈍い光を、覗き込むように見詰めていると……。
不意に、重く響く声が頭に伝わって来た。

「……?!」
驚き、思わず珠を取り落としそうになる。
それでも決して落としたりしないよう、一度胸に抱え込みーー恐る恐るもう一度窺った。
ーー今度は……何も聞こえない。
…何だったんだろう…?
それにしても此処へ来てから、次々と不思議な事が起こる。
でも、それを見聞きしているのは、多分私だけ…。

ーー辺りには、ただーー。
部屋の天井や壁から床へ、湧水が滴る水音だけが響いていた。
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