表記について

・R指定表現のあるページには、(※R)を付けています。苦手な方はご注意下さいませ。
・「NOVEL1」の内容は"ポーンコミュニティ"にも載せておりましたが、本サイト掲載の際に各所加筆修正しております。

9

私は、いつも支えられる事しか出来ていない。
覚者と従者の関係ながら、私は彼に一方的に頼り続けている。
これ以上、何を望むのか…。
心の中で、図々しくも頭をもたげようとする想いを振り払う。
彼の腕にそっと手を掛け、ありがとうと言って離れた。

「ーーいえ。大丈夫ですか?」
まだ少し不安そうな彼に、小さく頷いた。
ーーまだ陽は高く登っていた。
ほっと緩む彼の表情がいつもより少し眩しいのは、そのせいだろうか…。

「ーー私は…」
彼が何か言いかけて、軽く俯き一度口を噤む。
けれどすぐ視線を戻し、続けた。
「あなた様をお守りする事が、私の使命。…何度でもお助け致します」
穏やかな表情、優しい眼差し。けれども強い輝きを抱いた瞳は、真っ直ぐで。
あまり多くを語らない口から紡ぎ出される言葉は、私の胸の中に直接響くような力強さを感じる。
安心感に包まれ、濡れそぼった体と心がじわりと温かくなる。
自然に力が抜け、表情が緩んでいくのが自分でも分かる。

「ーーありがとう」
今初めて、ちゃんと言えた気がした。

ーー結局、財布はアツシさんがもう一度拾いに行ってくれた。
私はその間、辺りに落ちている枯れ枝を拾い、魔法で小さな火を点け焚き火を起こした。
濡れた服が乾くまでの間、私達は火に当たりながら少し話をした。
ぽつり、ぽつりとではあったけれど…。
カサディスの事、一緒に育った”家族”の事。
たどたどしく話す私の言葉を、彼は静かに聞いてくれた。

今まで、簡単だけど難しかった事。
私の中で、何かが少し変わった気がした。
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