表記について

・R指定表現のあるページには、(※R)を付けています。苦手な方はご注意下さいませ。
・「NOVEL1」の内容は"ポーンコミュニティ"にも載せておりましたが、本サイト掲載の際に各所加筆修正しております。

2

「此度の任務、死地へとお送りするような事になり…。私自身も悔やんでおりました」
卿の表情が、再び僅かに曇りを見せる。
「ーーですがお陰様で、此の地もゴブリン侵攻の脅威から免れられます。大変感謝致します」
また、そして今度は更に丁寧に、頭を下げられてしまった。
戸惑いながら、言葉を探すも……月並みな言葉しか浮かばない。
もどかしく思い口ごもっていると、卿は眉根を寄せ、更に申し訳なさそうに切り出した。
「ーーお疲れのところ、申し訳ございませんが…。次の任務の話が届いております」

その言葉に、何となく身構える。
かなりの激戦ではあったけれど、やはり…。今回の戦いで終わりではない。
次はどのような戦い、それとも謎の解明が…?
「ーー教会の調査団と共に、遺跡調査に向かって頂きたいのです。竜に関する資料の調査が目的ですから、今回程の危機に晒される事はないと思いますが…」
その話を聞き、"竜"という言葉に関心が動く。
「…はい…。行きます」
頷きながら答えると、卿は小さく溜息を吐きながら言った。
「領王様の達しにより、申し訳なくもあまり日を空ける訳にはいかず…」
逸らしていた目線をまた、私の方へ戻す。
「何とか明日一日だけ休んで頂き、明後日には向かって頂けますか」
「…わかりました」

…そもそも、これは王命の任務だもの。こちらの都合が聞き入れられないのは仕方ない事だ。
卿の目をしっかりと見返しながら、改めてもう一度ゆっくりと頷いた。
そして新しい任務を受ける毎に、竜の許へ少しずつ近付けている気になれる。
…本当に、そういう" 気がする"、だけかもしれないけれど。

「かなりお疲れでしょう。…今日はもうお休み下さい」
穏やかな口調での暖かい言葉に、ありがとうございますと微笑って応えた。
「今回の報酬です。お受け下さい」
有無を言わさず、私の手を包むようにして金貨袋を握らされた。
「ーーどうか無理なさいませぬよう」
「…は、はい……あの……」
……手はまだ離れない。
それ程までに、心配してくれているのだろうか。
例えばそうだとする、気持ちは有難くもーーどうしてもこの状況に戸惑い、つい目を逸らしてしまう。
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「……あ、ありがとう、ございます…」
卿の手の温もりを感じながらも。
何かと…何処かが違うーーそう思った。
私は、こういう温かい感触を知っている。
…とても優しく、温かい…。それはきっと…。
首だけ動かし、後ろを振り向いた。

「私はこれで」
一瞬目が合いながらも…すぐにそのひとは踵を返し、歩き出す。
「…え…」
失礼します、と目をあまり合わせられないまま卿の手を解き。
ーー見慣れたマントの靡く、広い背中を追い掛けた。

ーー待って…、アツシさん…!
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