表記について

・R指定表現のあるページには、(※R)を付けています。苦手な方はご注意下さいませ。
・「NOVEL1」の内容は"ポーンコミュニティ"にも載せておりましたが、本サイト掲載の際に各所加筆修正しております。

3

彼の背中が、どんどん遠くなるような気がして。
なかなか追い付けない距離を、駆け足で追い縋った。
「ーーアツシさん…?」
追い付いたのはちょうど、職人区と市街区の境目の、門の側の畦道。
ポーンギルドももうすぐそこにある。
ギルドの中へ、リムへ去ってしまう前にと、とにかく声を挙げて背中から呼び止める。
「待って…!」
ーー彼の足が止まった。……答えはない。
「…どうしたんですか…?どうして……」
自然と声が震える。
ちゃんと訊きたいのに…どう訊いていいのか分からない。
うまく言葉が出ないもどかしさに、唇を噛んだ。

「ーーどうか…お気になさらず」
やっと振り向いてくれた。
「…私は…ただあなたをお守りするポーンです。マスター」
「………」
いつもとは、目が…瞳の輝きが違って見えた。
昏くーー冷たい表情、とも思える雰囲気にどきりとする。
少し話し辛い空気感に、それでも必死に言葉を探し出した。
「…あの…。明日はゆっくり…休んで下さい。えっと、私も…たまには身の回りの事を……それから…」
「了解しました。失礼します」
ーーそれだけ。二つ返事を残し、去って行く。
……違う。やっぱり、何かが違う…。

きっと、彼も疲れてるんだ……。そう、きっと…。
「ーーあの!」
気が付けば、マントの裾を掴んでいた。
「ーーどうか、無理しないで…。私も…頑張りますから…。強く…なりますから…」
何を言おうとしているのか、自分でも分からなくなる。
何故か必死に弁解しようとしている自分が、不思議に思えながら。
喉が急速に渇き詰まる感覚に、もどかしさも感じながら…。
「…これ以上…迷惑…かけませんから…」
ずっと、心の奥に引っ掛かっていた思い。
それと共に、暖かいものが頬を流れ伝う。

「ーー寄らないで下さいと…言った筈です」
感情を殺したような、背中を向けたままの返事。
「……でも……」
ーーどうしても。裾を握る手を離したくなかった。
けれどもそれは、振り解かれ。
入れ替わりに、肩を掴んで引き寄せられ……。
「ーーこれでも…?」

返事の言葉は紡げなかった。

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