表記について

・R指定表現のあるページには、(※R)を付けています。苦手な方はご注意下さいませ。
・「NOVEL1」の内容は"ポーンコミュニティ"にも載せておりましたが、本サイト掲載の際に各所加筆修正しております。

3

支度を済ませて宿を出る。
軒下の柱の陰に、アツシさんがーーこちらに背を向けて立っていた。

「…おはようございます…」
足音と、宿の玄関の扉の閉まる音が聞こえたのか…そのままだったけれど挨拶をしてくれた。
「ーー先日は……。出過ぎた真似をして…大変申し訳ありませんでした…」

頭を下げながら、ゆっくり弁明する言葉に。
この間の夜の出来事の記憶が、映像となって蘇る。
…でも、それは…。
静かにただ首を振り、彼の腕にそっと触れた。
ゆっくりと顔を上げ、振り向いた彼が見せたのはーー。
…あの夜と同じ、少し哀しげな目。
あの時の事を、後悔してるんだ…。

…でも、私は…。

彼の目を見て、きっとぎこちなくも…微笑みかけながら、小さく首を振った。
「…マスター…」
彼の表情が、泣き笑いのようなそれになる。
「…ありがとう…ございます…」
もう一度頭を垂れる彼に、でも私はーー何も言葉を掛けてあげられなかった。

後悔なんて…しなくていいのに。

ーー短い沈黙。
「ーー今日は、どうされますか…?」
幾ら心に思うところがあっても、今日は任務に発たなければいけない日。
そこは意識を切り替えなければいけないと、彼は常々従者として心得ている。
その質問に、私は外への門がある方の通路を指差した。
「行き先は…?分かっておられるのですか?」
ゆっくり、肯き返した。
そう、昨日…彼の人に聞いたから…。

ーーまた、記憶が蘇る。

「…マスター?」
訝しげな表情。
…駄目…、心配かけちゃ…駄目。
何でもないと言うように、小さく首を振った。
「マスター」
今度は、短く。
私を見詰めるその真っ直ぐな視線から、思わず体を背けた。
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