表記について

・R指定表現のあるページには、(※R)を付けています。苦手な方はご注意下さいませ。
・「NOVEL1」の内容は"ポーンコミュニティ"にも載せておりましたが、本サイト掲載の際に各所加筆修正しております。

4

…あんなに会いたかった彼に…けれど、あまり正視されたくなかった。

私の腕や首にはーー昏い記憶の印が付いていた。
”何か、怖い思いをしたのね…” 
昨晩泣きながら宿に駆け込んだ私の、その理由を何となく察したのだろうエムさんの言葉。
”貴女がいけないのだ…”
あの時のーー映像と言葉が浮かぶ。
思わず、耳を塞いだ。
そんな事をしても、もう既に済んだ事なのに…。

掴まれた腕、不意に痛みが刺した首筋、重ねられた唇…。
彼の人の想いを、例え少しでも受け入れてしまった…。
ーー私の不注意で。

「マスター、どうなさいましたか」
じっと見詰めている、真剣な表情。
…お願い…私を…。
…そんな真っ直ぐな目で…見ないで…。
ーー目頭が熱くなる。
駄目…駄目…!そう言い聞かせる程、涙が滲む。
本当は、言いたい。こんな私でも…あなたが好きだって…。
…でも私には…言えない。
ーー言う資格なんてないーー。

「マスター…。何かあったのですね…?」

”アツシさん…ごめんなさい…。”

彼の目が、大きく見開かれた。
「…まさか…そんな…。ーーマスター…?!」
心配そうに覗き込み、肩を掴もうとする彼の手を避け…。
涙を見られないように、彼に背中を向けた。
ーー言えない。何があったかなんて、言いたくない…絶対に。

…ずっと、胸の中にしまっておこう…。
何があっても、絶対話す事なんかしない。

昨晩、泣き疲れるまで涙に暮れ、そう誓った私の心は…。
いつしか、口から言葉を発するのを止めていた。


ーー声がーー出なくなっていた。

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