表記について

・R指定表現のあるページには、(※R)を付けています。苦手な方はご注意下さいませ。
・「NOVEL1」の内容は"ポーンコミュニティ"にも載せておりましたが、本サイト掲載の際に各所加筆修正しております。

5

竜が其の手に握りしめているのはーーアツシさんだった。
「ーーえ……!?」
体の力が抜け、杖をほろりと取り落としてしまう。
足下に、鈍い音を立てて転がる音がーーまるで遠くのように聞こえる。
空いた両手で反射的に口を押さえた。目の前の光景を否定したくて、首を横に振る。

「ーー覚者よ。大切なものを護るのでは無かったのか……?」
「ーーっ!マスター……、私は……!うぁあああっ!」
聞きたくもない、彼の苦しげな声。
思わず両手で、頭を抱え込むように耳を塞いだ。

「……て……。やめて……!ーーいやああぁ‼︎ 」
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ーーすぐ側で、規則的な風切り音が聞こえ始めた。
「ちょっと!このぉ……!!離しなさいよ!」
ルゥさんが竜の腕をめがけ、次々と素早く矢を射ながら私の隣に歩み寄って来ていた。
「ーーセッちゃん、あんな奴に負けちゃだめ!諦めちゃだめ‼︎ 」
「そうです。ーー今は逆に、攻撃が防げない筈…!」
ハゥルさんも、杖から竜の腕へと向かって魔力の光弾を放つ。

ルゥさんやハゥルさんだって……、頑張ってくれている。
ーー私が先に諦めては……!
溢れる涙を、ぐいと素早く袖で拭った。

私も床に落とした杖を拾い上げ、皆と一緒に魔力の弾を竜めがけて放った。
ーーほんの僅かな間。でも、とても永く感じた。
それはきっと……。
目の前の状況を、私自身認めたくないから。
見ていたくないのに、嫌でも見なければならない。ーーただ苦しく、辛かった。

ふと、竜の口が何か呟き。その掌を拡げた。
私達の攻撃が効いたのか、それとも竜自身が先に手を放したのか。
床に崩れ落ちる彼の姿に、私はとっさに杖を再度床に放り出しーーそのままなり振り構わず駆け寄った。

いつも力強く機敏に戦う彼が、力無く倒れ伏す姿に。
ーー不安が胸をよぎる。
「アツシさん…!」
彼の頭上から屈み込み、背中に手を掛けた。
少し揺すってみると、床に伸びた指がぴくりと動いた。
ーー良かった……!何とか無事だった……‼︎
一度拭いた涙が、もう一度溢れ頬を流れる。

「…アツシさん…!よかった…」
「ーーはい…。……マス…ター……」
項垂れたままの彼から、ぼそりと呟くような答えが返ってくる。

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