表記について

・R指定表現のあるページには、(※R)を付けています。苦手な方はご注意下さいませ。
・「NOVEL1」の内容は"ポーンコミュニティ"にも載せておりましたが、本サイト掲載の際に各所加筆修正しております。

6

背に手を掛けてみる。
ちゃんと息をしている。ーー温かい。
「…アツシさん…!よかった…」
「ーーはい…。……マス…ター……」
項垂れたままの彼から、ぼそりと呟くような答えが返ってくる。

ふらつきながらも立ち上がる彼の腕を支えようと……そっと手を伸ばした。

そんな私の手は、彼へ向けた気持ちごとーー強い力で振り払われた。
「触るな…!」
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一瞬、耳を疑った。そして彼が今……何をしたのか。
ーー目の前の出来事に、思考が追い付かない。
呆然としたまま、勢いに圧されて後ずさる。

「セッちゃん、離れて!」
「…えっ…?」
何故か、緊迫したルゥさんの声。

ーーどうして?だって、私の目の前には……アツシさんしか居ない。

戸惑いを抱きながら、顔を上げる彼の姿をただ見守る。
……その瞬間が……とてもゆっくりに見えた。
ゆっくりーーそう、ゆっくりと顔を上げるその表情は。
いつもの、見慣れた彼のものではなかった。

「……貴様か……。私のマスターを……」
よく分からない言葉と共に、私を見る目は……。
今までどんな場面でも見た事が無い程に、そこはかとなく暗い。

「ア……ツシ……、さん?」
ーー怖い。
彼を見ていて、初めてそう感じた。
どうして……そんな目を向けるの……?
何が起こっているのか、全く解らない。
判断を下さねばならない頭にも、指令を出さねばならない足にも……。
起こる筈の無い事態を認められず……命令が下せず、動けない。

ーー彼の腕がーーゆっくり挙がる。

「ーーセッちゃん!!」
ルゥさん?
そちらには、ちゃんと振り向ける。
目を離した瞬間ーー聞き慣れた金属音と共に、風が凪いだ。

……と、足に鋭く熱い感覚が走り………。
次いで、何か生温かいものが爪先の方へと流れ落ちる感触が伝う。
そして遅れて、そこから駆け巡るーー”痛み”。
恐る恐る、その感触を確かめ辿ると。
疼く片足の太股あたりに、赤い液体の幕が拡がり染まっているのが目に入る。

「………?!」

今。目の前に居るのは……アツシさん。
そしてーーその手に握る彼の剣刃に滴っているものは……。
「……なに……?」
思考と共に、動きを忘れた口から……絞り出した声が掠れる。
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