表記について

・R指定表現のあるページには、(※R)を付けています。苦手な方はご注意下さいませ。
・「NOVEL1」の内容は"ポーンコミュニティ"にも載せておりましたが、本サイト掲載の際に各所加筆修正しております。

9

「ーー良いですか。彼のあの状態を治すには……。とりあえず、方法は幾つか在ります」
ハゥルさんが神妙な顔で説明を始める。黙って目を見ながら一度頷き、耳を傾けた。
「まずは……、意識を失うまで攻撃する方法」
どきりとした。
ーーそれだけは、したくない。
思わず俯き、唇を噛み締めた。
「次に、癒し手の魔法」
ーー今此処には、癒し手が居ない…。
ぎゅっと拳を握った。

「そして、今の我々に一番最適な方法が……」
ーー最適な……方法?
反射的に顔を上げた。

けれどハゥルさんは、言いかけて一度言葉を切った。
俯き口元に手の甲を掛け、ちらと目を泳がせる。
ーーもう一度、考えを整理しているのだろうか……?
先の二つの案は無しとして、残りの一つに賭けるしかない。
すがる思いで、固唾を呑んで智恵者の言葉を待った。

「……多分、ですが」
ぼそりと呟くように言いながら、けれどはっきりと顔を上げ、私に目を合わせて告げた。
「彼は、正気を失いながらも……。僅かにでも、その内に自我が残っている気がします」
「……え…っ?」
思いもかけない言葉に、震える手をぐっと握った。

胸の奥がざわつくような、鈍い衝撃が走る。
「普段の彼の剣の腕ならば。今頃、覚者様は……。けれど、彼は急所を外していた」
手の内側が汗で湿る。
ーーまさかそれは……。
「……きっと彼は…。もう一人の自分と戦い、抗っているのです」
ハゥルさんの表情が苦々しげに曇る。

ーーアツシさん…。…あなたは…!

……泣いちゃ駄目。
痛い程、唇を噛み締めた。

ハゥルさんが、腰に携えた袋から何か取り出すのが見えた。
それは、液体が満ちた小瓶。
……何かの…薬?
視界が晴れ、ざわめきが鎮まってゆく。
私の視線に気付き再び目を合わせたハゥルさんが、あくまで慌てず静かに説明を始める。
「ーーこれは、どんな状態異常でも治すことができる薬……万能薬です。これを飲ませる為に…」
更にじっと、私の目を見据え。
「彼にーー呼び掛けて頂けますか?……あなた様の……。彼の愛する者の声で」
最後は促すように、力強く言い切った。

その薬を飲ませれば…。
ーーならば。
「……わかりました……」
ゆっくり、でもしっかりと肯きながら、手を差し出した。

「ーーそれを、私に」
けれどハゥルさんは……一瞬、躊躇するように手を僅かに引く。
「……いえ。それは危険です。飲ませるだけなら私が……」
「……大丈夫です」
「しかし、また何がーー」
「渡して下さい」
ハゥルさんの否定の言葉を遮り、黙り込む彼のその手から瓶を受け取った。

ーーごめんなさい。これは……、私の手で。
「ありがとう…!」
一度頭を下げ、踵を返した。

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