表記について

・R指定表現のあるページには、(※R)を付けています。苦手な方はご注意下さいませ。
・「NOVEL1」の内容は"ポーンコミュニティ"にも載せておりましたが、本サイト掲載の際に各所加筆修正しております。

5

そこまで訊ね掛けると、彼は視線を僅かに流し……。
「姉さんは先程まで、此処で私と居ました。ーーそして、此処へ覚者様を運んだのは…彼です」
名前を出して訊く前に、答えを返してくれた。

「あの後、広間であなた様をずっとーー。私達が声を掛けるまで、傍を動こうとはしませんでした」
……アツシさん……。
ーー思わず、両の腕で自分の身を包んだ。
「そして此処へ着いた後、彼は…」

ハゥルさんの表情が曇り、躊躇うように口籠る。

ーー彼はーーどうしたのだろう。
膝に掛かる毛布をぎゅっと握りしめた。
「ーーリムへと帰り…そのまま……」
いつも、別れても次の日には必ず…。
ーーでも、それよりも……確かに彼は言った筈。
……探索から帰ったら……傍に居てくれると。

「引き止めましたがーー。此処には居られません、と……」
……じわりと、目頭が熱くなる。
「先程、姉さんが彼のもとへ向かいました。ですから、きっと…」

両手で顔を覆い隠し、その言葉に黙って頷いた。

そっと、枕元のあたりに何かを置かれる気配がした。
「ーー良ければ少しでも…召し上がって下さい」
そして、また外へと向かう衣擦れの音。
「私も一度、様子を見て参ります。…どうか暫く、お休みになっていて下さい」
指をずらした隙間からそちらを伺うと、ハゥルさんが幕を上げて出ていく背中が見えた。
眩しい外の光に目を逸らした先には、丁寧に切り分けられたリンゴ。

……ありがとう……。
俯いたまま、声にならない声で呟いた。

きっと…帰ってきて…。
「……アツシさん……」
私の中に残る彼の姿を思い浮かべながらーーそっと名を呼んでみる。
いつもなら側にいて…名を呼べば、はい、と優しく答えを返してくれる。
「ねえ……アツシ…さん……」
敷物に落ち、染みていく涙の粒と共に、もう一度ゆっくりと横になる。
毛布を顔まで深く被るとーー涙が止まらなくなった。
あの時、意識を失う直前感じた温もり。
ーーあれは、あなたのものでしょう……?

やがて私の意識は…再び深く沈んでいった。
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